2008年11月5日水曜日

プレゼンに失敗した麻生首相の追加経済対策

さて、震源地は震源地の新大統領に任せるとして、批判し易かったんで色々扱下ろした坊ちゃんの景気対策について、経済の専門家のお話も聞いてみまひょ。

「DIAMOND ONLINE

 麻生太郎首相は10月30日、首相官邸で記者会見し、財政支出5兆円、総事業規模26.9兆円に及ぶ新総合経済対策を発表した。筆者もその会見を生放送で見たが、大筋で言えば、プレゼンテーションは失敗に終わったと思う。

 翌31日の朝刊では、日本経済新聞以外の各主要紙5紙の一面の一番大きな見出しは、「3年後に消費税増税」だった。結局、政府・与党としては、景気刺激を印象づけなければならないところで、増税のほうを強く世間に印象付けてしまった。

 そもそも経済効果という点から言うと、今財政的に多少刺激するとしても、3年後にそれを取り返しますよというような話をしてしまえばおよそ効果は 期待できない。会見の途中で、麻生首相が「経済の状態が悪い時に増税する気はない」と言ったので、覚悟を決めているのかと思ったが、その後で、増税のタイ ミングについて「3年後にはお願いしたい」と数字を明言してしまった。数字を出さなければまだ良かった。あれだけはっきり言ってしまうと、官僚のカレン ダーには、3年後に丸が付くだろうし、なにより印象としてそこだけが妙に具体性を帯び、強烈なイメージを与えた。

 麻生首相の気持ちを忖度すれば、「私は、日本経済は全治3年と言っている。3年後には必ず良くなっているとの思いを込めて、敢えて3年後と言う」 ということなのだろうが、そうであったとしても、「その時が来たらまたその時に考える」ぐらいは補足しておくべきで、残念ながら、言葉が足りなかった。

 ただ30日の会見は、メディアの側もどこか妙だった。経済対策発表の会見なのに、おそらく来ていたのは政治部の記者ばかり。解散・総選挙関連の質 問に終始した。会見後のNHKのニュースも政治部の記者が解説に起用された。経済対策の発表なのにどうしたことか。メディアの世界では、政治部が偉いのか も知れないが、経済の話を真面目に伝えないのは困ったことだ。

 さて、肝心の中身を見ていくと、柱となっているのは、家計への緊急支援として打ち出された総額で最大2兆円の「生活支援定額給付金」だ。クーポンか現金ですべての世帯に給付する方針で、年度内に実施するという。

 所得のある人にもない人にも配りますという精神は宜しかろうと思うが、如何せん金額として小さい。アメリカではブッシュ政権が年初に、戻し減税(所得税の還付)などを柱とする総額1680億ドル(約17兆円)の景気対策法を成立させたことは記憶に新しい。

 たとえ2兆円がフルに支出に回ったとしても、GDPの0.4%に過ぎない。日米の経済規模の差などを考慮すれば、定額給付金の額は5兆円ぐらい あってもよかった。アメリカの経済対策に対するアンケート結果やかつて日本で実施された総額6000億円の地域振興券でも、家計ベースでは受取額の3、4 割しか消費の純増には回らなかったようだ。クーポン券自体は使われるのだが、通常の所得の中から貯蓄されてしまうのだ。

 確かに、定額減税を経済政策の柱にしようという考え方自体は悪くはないが、国民一人当たり1万5000円では、ホテルのバーで一杯飲むくらいだろう。国民に対する麻生さんの挨拶代わりなのだろうか。この金額では、緊急の対策と言えるほどのインパクトはない。

 定額給付金以外の対策に目を転じると、住宅ローン減税や証券税制の優遇、高速道路料金の引き下げなど、いずれもある程度以上の所得というか余裕がある人に対する対策になっている。

 住宅ローン減税の規模は、確かに大きい。2009年の入居分から所得税額の控除を受けられる上限を過去最高の600万円程度(2008年は160 万円)に引き上げるというものであり、住宅ローンの残高に対して、1%ずつぐらいの減税をしていこうという話だ。たとえば、6000万円の物件で、金利の 要素を考えなければ、最大1割近い値引きに相当するような効果がある。

 ただ、これで住宅市場が底入れするかと言うと、話は別だ。世界的に不動産価格の動きが連動する中、アメリカの不動産価格は下がり続けているわけ で、物件のだぶつきに伴うマイナスの効果は急には消えないだろう(むしろ住宅ローンの減税額が大きくなることで、マンション投資で節税しませんかといった 類のセールスの電話がうるさくかかってくると思うとげんなりしてしまう)。

 そもそも現在の住宅市場の悪化は、サブプライム問題だけでなく、耐震構造問題や建築基準法改正などに伴うある種の政策不況に起因している。住宅ローン減税は、ある意味で、半分は景気対策、半分は住宅関連業界に対する「ごめんなさい」なのではないのかと思える。

 一方、乗用車に絞ってしかも土日祝日の通行料金を原則1000円にするという高速道路料金の引き下げは、高速道路の無料化を掲げている民主党に対 する対策なのではないか。詳細はまだ決まっていないようだが、どうもトラックを除外するらしい。筆者は、むしろトラックのほうを優遇したほうが、物流費用 に対する効果は大きく、カーオーナー以外の国民にも恩恵が及ぶと思うが、それだけの予算がないという判断なのだろうか。

 高速道路料金は、そもそも将来採算がとれたら、利用者に還元していく、すなわち高速を使っている人たちに対して、高速料金を下げていくのが本来の姿であるはずだ(道路財源の一般財源化に優先する正論だろう)。

 また、自民党は福田政権時代に、民主党のガソリン税値下げに対して、「環境税」の考え方を持ち出して反対したわけだから、温室効果ガスの排出をわざわざ促すような高速道路料金の引き下げを言うのは奇妙でもある。今ひとつ釈然としない対策だと言わざるを得ない。

 対策リストのその他の項目を見ていても、不適当と思われるものがある。たとえば、失業保険などの原資となる雇用保険の保険料率を、2009年度に限って、現行の1.2%から0.8%にまで引き下げるという項目だ。

 雇用保険の財源に比較的余裕があることから(埋蔵金は雇用保険にも隠されていると言われている)、雇用保険料の引き下げはとりあえず労使の負担減 につながるが、一応保険料として考えているということは、これから保険の収支が悪化すれば、将来逆に保険料を上げる可能性もあることを意味する。たとえ ば、雇用保険料に対して一般会計からいくらか補填するといった形で、雇用保険を通じて、メリットを還元しますと言うならば対策とも呼べようが、保険である というならば、保険の中で収支をバランスさせるわけだから、これを景気対策の項目として並べるのはおかしい。現在、雇用保険の特別会計に余裕があることは 分かるが、些か場当たり的な印象だ。

 証券投資の優遇税制3年延長は「当たり前」過ぎて、対策としてのインパクトはない。上場株式の配当への課税は撤廃するというくらいでいいだろうし、株価の理論値を上げ、内外からの投資を促すには、法人税の減税が効果的だろう。

 また、追加経済対策の事業の大半となる約21兆円が充てられた中小企業向けの資金繰り対策は、福田前内閣が8月に打ち出した対策(信用保証協会による緊急保証枠や政府系金融機関による貸付枠)を拡大したものだが、運用のあり方には注意が必要だろう。

 今年度の財政支出としては、貸し倒れ見込み額が5000億円と、支出の予算額としては小さい。当面の小さな支出で、事業規模を大きく見せる「保証」という形は、ある種の官僚の知恵なのかもしれないが、はたして望ましい効果をあげるかどうか心配がある。

 金融機関が現在の融資先の融資を借り換えさせるときに、たとえば、信用保証を通じて、融資の回収を図るというような危険性がある。また、審査がい い加減なものになると、ずさんな融資で経営難に陥った新銀行東京のような失敗を繰り返すことになる(ちなみに、日経の報道によれば、金融機関への公的資金 注入を可能とする金融機能強化法改正を巡る与党修正案で、同行は適用の対象外ではないらしい)。他人の債務の連帯保証が時にそうであるように、国民にとっ て「保証」は、将来大きな負担になりかねないし、保証が大きな負担になるときには、政策の担当者が代わっているのだろう。

 こうみると、対策のいずれの項目も冴えないというのが率直な感想である。

 冴えないといえば、先週金曜日の日銀の利下げもそうだった。

 財政による刺激策というのは本来、資金需要を作るという意味で、金融政策の効果を補完するものだが、金曜日の利下げ幅は0.2%と小さかった。敢 えて好意的に解釈すれば、「もう一回できるぞ」という意思表示なのかもしれないが、インパクトを持たせるためには、その「もう一回」も含めて一気に 0.4%ほど下げると良かったのではないか。そうすれば、日銀の本気が伝わっただろうし、市場では「サプライズ」があったはずだ。たとえば、為替市場では 1ドル100円以上の円安にいったん戻ったのではないかと思う。

 結局、「対策」はインパクトが乏しいし、利下げ幅はケチくさいし、先週は、財政面からも金融政策面からも感心するような政策は出てこなかった。

 だが、現在の閉塞感を自民党のせいだけにするのはどうか。政権奪取を狙う民主党も最近は、情報発信が弱い。本来なら、相前後して、民主党版の緊急 経済対策案をぶつけてもよかったはずだ。これでは、何かをやっている分だけ麻生自民党政権のほうがまだましだ、と言われても仕方がない。経済問題に於け る、民主党の存在感の薄さも深刻な心配事だ。

山崎 元(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員)

【第54回】 2008年11月05日

報道の仕方に問題あったってな話と、冴えない第一の原因が「三年後の増税の明言」だって括り方は、素人でも言えそうだけど、ひとつひとつ論破してくれてるのは、分かり易くてありがたいです。

ただ、主観的には、今回の対策って対策になってないと考えてたんだけど、この話では、そこまで強く否定するもんでなし、逆に民主党の存在感の薄さを心配して締められてしまうと、何か発表した分だけ坊ちゃんが偉かったように思えてしまうのは、何だかなぁ....というのが正直なところ....。

やっぱり今必要なのは「政治力」なんじゃないのかな?

危機を克服せんがために、政局よりも政策と掲げたスローガンは立派だけど、うまくいかないと開き直るは、与党内で政局でっち上げてリーダー決め直すは、郵政民営化をどこまで引っ張りゃ気が済むの?って思ってるところに、こんな政策ぶち上げられたんじゃ、頭にくるのが人情でしょ?

政局作れ!って話でなしに、選んで納得済みの連中がしくじったんなら、それはそれで受け入れ方が異なると思うんですけど....。

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